(症例1:頬)赤いにきび・小さいもの →
にきびの第1段階であるコメドに、第2段階としての炎症が起こった状態が赤にきびです。
“小さい赤にきび”は軽~中等度の炎症で、重症度でいうと“中等症のにきび”にあたります。
炎症によって毛穴が赤く盛り上がったものを赤色丘疹(せきしょくきゅうしん)といい、これはまだ炎症の初期の段階です。
炎症が進んで丘疹に膿がたまっているのが見えるようになったものを膿疱(のうほう)といいます。
さらに皮膚の深い部分にまで炎症が及んで、膿疱のまわりが硬くなって丘疹が大きくなったものを硬結(こうけつ)といい、深いところに膿がたまった状態を嚢腫(のうしゅ)といいます。
“赤にきび”には、丘疹と膿疱が主体の“小さい赤にきび”(丘疹膿疱タイプ)と、炎症がさらに悪化した“大きい赤にきび”(硬結嚢腫タイプ)があります。
(症例2:頬)赤いにきび・小さいもの →
1、毛穴に皮脂が貯まるとアクネ菌が増殖→“細菌性リパーゼ”が赤にきびを誘発
毛穴に住んでいるアクネ菌などの常在菌は、普段は感染などの症状を引き起こす力はありません。
しかし、毛穴が閉塞したり皮脂分泌が過剰になったりするとアクネ菌の栄養源である皮脂が毛穴に溜まりアクネ菌が必要以上に繁殖します。
すると、アクネ菌が産生する細菌性リパーゼなどのさまざまな酵素によって毛穴の炎症が惹起されます。
また、アクネ菌は毛穴の閉塞そのものにも関係しているといわれています。
アクネ菌の産生する細菌性リパーゼによって皮脂中の中性脂肪が分解されて遊離脂肪酸が作られ、それが毛包漏斗部を刺激して角化異常を誘発します。
2、アクネ菌が炎症誘発物質を出す→“好中球”が集まって炎症が起きる
異常増殖したアクネ菌からは、炎症誘発物質であるプロテアーゼなどの酵素や“好中球遊走化因子”が放出されます。
それによって好中球(白血球の一種で炎症の主役的な細胞)などの炎症細胞が毛穴に集ってきて毛穴は赤く腫れます(炎症)。この状態が“小さい赤にきび”(丘疹膿疱タイプ)です。
(図1)炎症とにきび発症 →
3、“活性酸素”が毛穴を破壊する→炎症が周囲まで広がる
毛穴に集結した好中球からは多量の活性酸素が放出されます。活性酸素は本来、からだに侵入した外敵を破壊し、生体防御の目的で好中球などの免疫細胞から放出されますが、過剰になると自分自身のからだの細胞まで攻撃し、生体に不利な組織障害をもたらします。
この活性酸素とアクネ菌が産生する細菌性リパーゼなどの酵素が毛穴の壁を破壊し、毛穴につまった内容物が周囲に流出すると、毛穴の周囲の組織まで炎症が広がり、ついには“大きい赤にきび”(硬結嚢腫タイプ)になります。
この炎症が長く続くと、治った跡も皮膚が完全に再生されず、瘢痕(いわゆる“にきび跡”)を残します。
(図2)赤にきびの形成過程 →
1、炎症を抑える治療
1)抗菌剤の外用治療
a)ナジフロキサシン(アクアチムローション(R))
b)クリンダマイシン(ダラシンTゲル(R))
c) クリンダマイシン+過酸化ベンゾイル(デュアック®配合ゲル)
抗菌剤の中には、アクネ菌の殺菌効果だけでなく、アクネ菌による好中球遊走化因子の産生抑制作用や好中球の遊走抑制作用、活性酸素の抑制作用などを有する薬剤があり(a、b、c)、選択して使用されます。
コメドタイプに炎症性にきびが少数できた程度の軽症のにきび治療には外用剤が使用されます。
2)抗菌剤の内服治療
中等症以上の赤にきび治療には、外用薬に加えて内服の抗菌剤が使用されます。
a)マクロライド系(ロキシスロマイシン=ルリッド)
ロキシスロマイシンは、アクネ菌に対する抗菌作用だけでなく、にきびの形成過程の各段階に有効な、にきびに最適な薬剤です。(表1)
【表1】ロキシスロマイシンのにきびに対する作用 1、アクネ菌への作用(抗菌作用以外の効果) 1)細菌性リパーゼおよび好中球遊走化因子の抑制 2)好中球の殺菌作用の増強 2、抗アンドロゲン作用(皮脂分泌を抑える) 3、皮脂分泌にかかわる神経への作用(ストレスによってできるにきびを抑える) 4、角質細胞への作用(毛包漏斗部の角化異常を抑える) |
b)テトラサイクリン系(塩酸ミノサイクリン=ミノマイシン(R))
塩酸ミノサイクリンもロキシスロマイシンと並び、にきび治療によく用いられる抗菌剤です。抗菌作用以外にもアクネ菌の細菌性リパーゼや好中球遊走化因子の抑制作用があり、また、毛包を破壊して炎症を重症化させる活性酸素を除去する作用があります。
3)漢方薬
漢方薬の中にも、炎症性のにきびに有効性が認められ、保険診療で用いられている薬があります。
a)清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)
b)十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)
2、皮脂分泌を抑える治療
ビタミンB2、B6製剤の内服
ビタミンB群は協力して糖質・脂質・たんぱく質の代謝にかかわっています。特にB2、B6は皮脂分泌をコントロールする働きがあり、不足すると皮脂分泌が増えてにきびの原因になります。食事からの摂取不足だけでなく、糖質や脂質を一度に多くとるとビタミンB2、B6の消費量が増えて不足します。
3、毛穴の閉塞を防ぐ治療
・クンメルフェルド液(イオウカンフルローション(R))
硫黄とカンフルを含有するローション。1日2回毎日朝晩外用します。毛穴につまった角質を除去する効果があります。また、通常の抗菌剤が無効なにきびの治療にも用いられます。肌が乾燥しやすい方には不向きです。
硫黄には角質を軟化させる作用、皮脂を抑える作用に加え、殺菌殺虫作用があります。カンフルには軽度の炎症軽減効果と鎮痛作用があります。脱脂効果があるため、乾燥しやすい肌質の場合や薬剤をつけすぎた場合など、肌がカサカサすることがあります。
・過酸化ベンゾイル【ベピオ®ゲル2.5%(マルホ株式会社)、デュアック®配合ゲル(ポーラファルマ)】
1日1回毎日外用します。毛穴につまった角質を除去する効果やアクネ菌の殺菌効果があります。肌が乾燥しやすい方や紫外線の強い場所にいる機会の多い方は注意が必要です。
過酸化ベンゾイルによるにきび治療の主な作用機序は、角層剥離(ケミカルピーリング)作用による毛穴づまりの除去です。また、抗炎症作用や抗菌作用もあります。特に、抗菌作用は、抗生物質外用剤と異なり、細菌の薬剤耐性(薬に対する抵抗力ができて薬が効きにくくなること)を作りにくいとされています。よって、これまでの抗生物質外用剤が効かなくなったにきびにも効果が期待できます。副作用として、人によっては肌がカサカサしたり粉がふいたりヒリヒリしたりすることがあります。また、長時間日光を浴びると皮膚が赤くなることがあります。
4、皮脂と毛穴の両方の治療
・アダパレン(ナフトイン酸誘導体):ディフェリン ゲル0.1%
アダパレンにはレチノイド様作用があり、毛包の角化を制御して面皰形成を抑制し、炎症性にきびへの進行を防ぎます。この外用剤は、面皰形成を抑えコメドタイプのにきびに有効ですが、皮脂腺を萎縮させる作用があり、軽症から中等症の炎症性にきび(小さい赤にきび)にも有効です。
トレチノイン(コメドタイプ自費治療の欄参照)のような皮膚への刺激作用はほとんどありません。日本でも平成20年10月より健康保険での使用が可能となり、諸外国に遅れをとっていた日本のにきび治療にも進展がみられるものと期待されています。
5、面皰や膿を排出する治療
クリニックでは、毛穴の周囲の組織を傷めない程度の弱い力でにきびの内容物を排出する処置を行います。にきびの表面の皮膚に注射針などで微小切開を加えた上で滅菌したにきび専用の器具を用いて面皰や膿を圧出します。
「にきびは触らないほうがよい」とは言っても、毛穴にたまった膿が自然に排出されないで何日も経過するのは良くありません。毛穴の周囲まで炎症が広がり、ついには“大きい赤にきび”(硬結嚢腫タイプ)となって治った跡もざそう瘢痕(いわゆる“にきび跡”)を残すことになります。
健康保険の適応が認められている治療法は、にきびに対する治療効果と安全性が認められてはいるものの、にきびの原因や各段階において、それが最善の治療法というわけではありません。
むしろ医師の立場からすると、「保険ではこれしかないから仕方なしに使っている」という場合も少なくありません。ここでは、医学的に効果が認められている代表的な治療について紹介します。
1、ケミカルピーリング
ケミカルピーリングは、強酸性や強アルカリ性の薬品を塗って皮膚を化学的に浸食し、薄く剥ぎとる治療法です。と、聞くと何だか恐ろしいですが、一般に行われているピーリングは皮膚のごく浅い部分にしか作用しませんので、実際に目に見えるほどに皮がむけるわけではありません。
酸によって角層に一時的なダメージを与えることで、創傷治癒を惹起してヒアルロン酸やコラーゲンの産生を促し、皮膚を再生させます。にきびの治療には、グリコール酸という、乳酸、リンゴ酸、クエン酸などと同じα-ヒドロキシ酸(AHAまたはフルーツ酸)がよく使用されます。
グリコール酸ピーリング
グリコール酸には、次のような作用があり、にきび治療に有効です。
1)毛穴につまった角質を融解する・・・コメドに効く
2)皮脂の貯留を防ぎアクネ菌を減少させる・・・赤にきび(炎症性にきび)の予防
3)自然な排膿を促す・・・赤にきびの治癒促進
4)ヒアルロン酸の産生を促す・・・保湿効果が上がり、にきびを予防
5)真皮コラーゲンの産生を促す・・・“にきび跡”を防ぐ
にきびの最初の段階である毛穴の閉塞を解除できるので、コメドタイプのにきび治療にはもっとも理にかなった治療法といえます。
また、上記のように、赤にきびの予防や治療、肌の保湿力の向上、ざそう瘢痕になりにくくする、などの効果も期待でき、にきび全般に対して有効な治療と考えられます。
2、外用剤による治療
1)トレチノイン(レチノイド:ビタミンAの誘導体)
これらの外用剤は、面皰形成を抑えコメドタイプのにきびに有効ですが、皮脂腺を萎縮させるので、軽症から中等症の炎症性にきび(小さい赤にきび)にも有効です。
また、角質を剥がす作用によって赤にきびの排膿、治癒が早まり、コラーゲンの産生作用もあるのでにきび跡が残りにくくなります。
3、光線療法 Blue light therapy
にきびの原因菌であるアクネ菌は、活性酸素を放出するポルフィリンという蛍光物質を産生します。
このポルフィリンに波長415nmの光線(青紫色の可視光線)をあてると、光学的に活性化され、より多くの活性酸素を放出して菌自身を殺菌してしまいます。
にきびの光線療法とは、このようにアクネ菌の産生する内因性のポルフィリンを利用して、人体には無害な青紫色の光線を照射することによってアクネ菌を殺菌し赤にきびを治療するという方法です。